どの裁判所で訴えればいいのか?

訴える方法を探る前に、実際にデモ機が返ってこないことによる大まかな損害を計算してみまし
た。本来は既に戻ってきて、ご依頼のある他のお客様に貸し出され、利益を生んでいるはずの商
品です。2月上旬に戻ってきてすぐに貸し出しに入ったとして、返却期限4月の20日までの約2ヶ月半で、通常であれば10回転します。採用率はほぼ100%で、数台まとめて購入されるお客様も存在し・・・、などと計算していくと、150万円を少し越える金額になりました。

個人にとって150万円は大金です。「はい、用意します」と、ポンと出せる金額ではありません。
電話で対応した担当によると、「どうも学生のようだ」といいます。貸出の申し込み欄には、学生や社会人といった区分けがないため分かりません。連絡がいっさい取れなくなった今では、確認のしようもありません。訴訟を起こして、仮にこちらが勝訴したとしても、もし学生なら(社会人でも)、すぐに用意できるようなお金ではありません。

実際には、借りた機器を一式綺麗に返してくれれば、こんな手間をかける必要はなかったわけで
す。そこでデモ機の機器一式の販売価格、10万円未満を請求するということに決めて次の展開に入りました。

訴訟や裁判を起こすことの迷い

実はこの時点でかなり迷いが生じていました。
このあたりで一度、だいたいの人が二の足を踏みます。新しいステップに入るとき時に生じる漠然とした「迷い」といったような心理です。

「脳」はずる休みをしたい器官だと言われています。楽をしたい、考えたくないんです。そのため、ありとあらゆる方法を使って現状を維持する手段を打ってきます。
学生の頃を想像してください。テスト間近で勉強をしなければならない。いざ机に座ると、ノートのすみの落書きが気になってほかにも落書きがあったか探し始めたり、部屋のホコリが気になって掃除をしだしたり、眠らないためにコーヒーを入れておこうと机を立ったり、なかなかテスト勉強を開始することができなかったという記憶はありませんか?

私も同じで、訴訟や裁判(裁判所)という未知の領域に踏み込む現実から逃れたいと思う心理と、これ以上面倒なことから遠ざかりたいという心理が生じていたのだと思います。痛みから逃れたいという人間の本能のようなものですが、そのために、訴訟を起こす必要が無い理由を知らず知らずのうちに探していました。
「本当はやりたくなかった」とか「仮に勝訴したとしてもあまり嬉しくない」などと。

そして、もう一つ。予期不安です。予期不安とは、まだ現実に起こっていないことに対して不安を感じる、という心理現象です。

例えば、「こんなことを言ったら嫌われてしまうのではないか」とか、「こんなことをしたら、こんな風に見られてしまうのではないか」とか、その後のことを予測して、いたずらに恐怖心を抱いてしまうというのが予期不安です。
予測するという思考は、身を守るためには重要な心理ですが、これが普段の生活内で過剰にはたらくと、前に進めなくなってしまいます。行動にストップがかかるのです。

私の場合も、訴訟を進めようとしている私個人が、「大人気ないやつだ」とか「小さいことにこだわる懐の狭いやつだ」などと思われたらどうしようという、予期不安を抱いていたのです。

たくさんの励ましのメール

これ以上面倒なことから逃れたいという本能的な部分と、このまま続けたらどんな風に思われるかという予期不安から、行動を起こせず、足踏みをしていた私ですが、思いがけないことが起こりました。

一連の経緯をメルマガで配信していたのですが、そのメルマガを読んでくださった大勢の方々から、思いがけず激励のメールをたくさん頂きました。
そのほとんどが応援のメールで、中には「徹底的にやるべきだ」と檄を飛ばしてくださる方もいて、それで吹っ切れました。こうして見守ってくれている方が大勢いるのに、「本当はやりたくなかった」だの、「こんな風に思われたらどうしよう」だのと、一人憂鬱になっていた自分が恥ずかしくなり、最後までやり通すと心に決めて、改めて訴訟の選択に入りました。

どの裁判所に訴え出るのか

さて、本人でできる訴訟には様々なものがあります。訴える内容によってその訴訟方法が変わっ
てきます。また、争う訴訟金額(訴額という)によって、管轄の裁判所も替わります。

まず、「どこ」の「どの」裁判所に訴訟を起こせばいいのでしょうか?
最初に訴え出る裁判所は、簡易裁判所か地方裁判所です(最初に訴訟を起こす裁判所を「第1審」といいます)。訴訟金額が140万円以下の場合(行政事件を除く)は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所となっています。

次の図を見てください。
裁判所
この様に、訴訟金額によって訴え出る裁判所が替わっています。私の場合は10万円未満なので簡易裁判所に訴え出ればよいことが分かります。
しかし、簡易裁判所は、図からも分かるように、全国438ヶ所にあります。私の会社は東京世田谷。品物を返してくれない人は愛知県名古屋市。どこの簡易裁判所に訴え出ればよいのか分かりませんでした。

調べてみると、原則として訴訟は「被告(訴えられる側)の住所地の裁判所で起こす」ことになっています。それが個人であろうが企業であろうが、被告となるものの住所地、住所がなければ今居るところの裁判所、企業であればその企業の所在地で、事務所などがないときは、業務担当者の住所地の裁判所に訴訟を起こすこと、と定められています。
いずれにしても、被告の住んでいる場所の裁判所まで足を運ばなければなりません。
10万円そこそこの金額で、名古屋まで新幹線に乗って何度か往復したとすると、移動代だけで10万円を超えてしまう計算です。

「でも、移動しないで訴える方法もあるのでは?」と、もう少し調べてみたところ、ありました。

被告の住所地で裁判を起こすが例外もある

被告の住所地で訴訟を起こすというのは、訴えられる人のあずかり知らないところで、全く身に覚えのない訴訟を起こされた場合、訴訟を起こされた裁判所所在地まで行かなければいけないという「不公平」を避けるものであることが分かりました。

公平、不公平という観点からみると、被害を被ったから訴えているのに、被害や損害を与えた者
の住むところの裁判所へ、交通費を自分で払いながら、せっせと通うというのも公平性に欠けています。そこで、契約や約束、ものの受け渡しなどが行われた場所が特定されている場合は、その場所の裁判所でも訴訟を起こせる特例も設けられていました。

以下に、本件に関係のある特別規定を明記してみます。
● 義務履行地(支払い等の義務を実行する所)の裁判所
金銭などの支払いは、債権者(支払われる権利を持った者)の所へ持参して支払うのが原則であるところから、貸金請求、売掛金の請求、敷金の返還請求、交通事故の損害賠償請求などは、債権者の住所が義務履行地となり、たいていは訴える側の住所地の裁判所で訴訟を起こすことができます。

● 事務所や営業所所在地の裁判所
ただし、その事務所や営業所の業務に関する訴訟にかぎります。

● 不法行為発生地の裁判所
例えば、東京在住の人が、地方で交通事故にあった場合、もちろん東京の裁判所で訴訟を起こすことは可能ですが、交通事故にあった、その地方の裁判所でも訴訟を起こすことができます。

また、東京在住の人が、詐欺まがいの商売で損害を被ったとして、地方の会社を訴えたいとした場合、結果発生地が東京であれば、東京の裁判所に訴訟を起こせます。
その他、「手形・小切手支払地の裁判所」や「不動産所在地の裁判所」、「被相続人の住所地の裁判所」など、被告の住所地の裁判所まで出向く必要のない特別規定がありました。
本件に関わる特別規定は上記3点だろうと見当を付けましたが、どれに当てはまるのか具体的に分からなかったので、確認は裁判所で聞くことにして、今度こそ訴訟の選択に入ります。

簡易裁判所が扱う訴訟は?

簡易裁判所で取り扱う訴訟は先にも述べたように、どのような訴訟であろうと、140万円以下の訴訟額のものです。
それでは簡易裁判所で取り扱う訴訟にはどんなものがあるのでしょうか?主なものをあげてみます。
・ 貸し金請求の訴訟
・ 賃金/解雇予告手当請求
・ 売買代金(売掛金)請求の訴訟
・ 交通事故による損害賠償請求
・ 敷金返還請求訴訟
・ 入会預託金返還請求
・ 賃料値上げ請求
・ その他損害賠償請求
・ マンション管理費請求
これらのことに関連してもっと細かく、様々な訴訟を起こせるようですが、どうも専門家に頼んだ方が良さそうなものもあり、一人で起こす訴訟には適当ではないような訴訟は省きました。
これらの訴訟は全て民事訴訟という枠に含まれます。

民事訴訟は大別すると、1.通常訴訟、2.手形小切手訴訟、3.少額訴訟、4.その他の訴訟の4つに分けられます。簡単に説明すると、
通常訴訟・・・貸し金請求や、売買代金の請求、人身障害に対する損害賠償など主に財産に関する紛争の解決を求める訴訟です。
手形小切手訴訟・・・民事訴訟法の特別の規定によって審理される手形小切手の支払いを求める訴訟です。
少額訴訟・・・訴訟内容は通常訴訟とほぼ同じですが、訴訟金額が60万円以下。裁判は1日、当日に判決が出て、訴訟費用がほとんどかからない訴訟です。
その他の訴訟・・・離婚や認知などの家族関係についての紛争に関する訴訟である「人事訴訟」と、「行政訴訟(※)」があります。
(※)行政訴訟とは、立ち退きや税金など、行政が関係する問題で国や県を訴える訴訟。
こう見てくると、今回の件は、デモ機が返却されないことに対する損害として、60万円以下の損害賠償を請求するという点と、当日判決が出るという点で、少額訴訟が適当ではないかと考え、こちらも裁判所に確認することとして、訴訟の選択を終了しました。

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