強制執行をする前に知っておくべきことと

強制執行という言葉は聞いたことがあると思います。読んで字の通り、裁判所から出た判決内容に従って、国家機関(執行機関)が強制的に実行に移す手続きです。
判決が言い渡されても、通常訴訟であれば控訴、少額訴訟であれば異議申し立てをして裁判が長引いている間に、被告の経済状況が悪化して支払い等ができなくなる可能性がある場合、また、勝訴しても被告から一向に金銭支払い等のリアクションがなく、判決で出された請求内容を、被告が任意(被告本人の意思)で実行に移さない場合、国家機関が原告に代わって判決で出た請求内容を強制的に実行させることを言います。

支払いなどの判決内容が履行されないからといって、いきなり「強制執行」手続きを取る(申し立てる)というのはあまりに早計です。強制執行で現金を押さえることができればそれが一番早いのですが、それ以外のもの、例えば債券や動産、不動産などの財産を差し押さえるとなれば、結構煩雑で面倒な手続きになってしまいます。お金もそれなりにかかります。
そこで、強制執行に取りかかる前に、被告に支払いを催促する通知書を「内容証明」で出します。

判決が出ると、原告・被告両方に判決書が送られて来ますが、判決書には支払いの期限や原告の振込口座等の詳細は記載されていませんので、内容証明には必ずこの2つの項目を記入し、支払期限内に支払いがなければ、強制執行に移行することを明記します。
(内容証明に記載する支払期限は7日~10日以内とするのが一般的のようです。)

ここでの内容証明は、先に記載した「証拠を作るための内容証明」とは性格が違っています。どんな理由があるにせよ、判決は既に出ているわけで、知らぬ顔を決め込む被告に対して、強制執行も辞さない内容が入っているわけですから、被告にとっては無視できる内容ではありません。ある程度の効果は期待できます。

例えば被告が住宅ローンを支払っている場合には効果は絶大です。なぜなら住宅ローンの契約書には「強制執行を受けた場合は、残りのローン全額を一括で返済」という内容が記載されている場合が多いからです。

この内容証明で、不履行にされていた判決内容が、履行に好転する可能性が高くなります。
それでもなおかつ判決に従わない場合には、強制執行に移ります。
※内容証明には配達証明を付けるのを忘れないでください。

「期限の利益の喪失」に注意

また長い条文が出てきました。「期限」の「利益」の「喪失」です。
少額訴訟の特徴のところで説明した通り、少額訴訟では判決に「支払い猶予」や「分割払い」が付けられることがあります。
これが被告にとって「支払いを延期または小分けにしてもらう(期限付きの)恩恵(利益)」となり、その「恩恵が消滅する(喪失)」ことを言うのが「期限の利益の喪失」です。

わかりやすく言うと、せっかく判決で「一括全額払い(通常訴訟では一括全額)」ではなく「支払い猶予」や「分割払い」でいいと大目に見てもらったのに、その通り実行しなかったために、お目こぼしは無効になり、被告は残金を即時一括で全額支払うはめになるということです。

少額訴訟の場合、強制執行をしようと思っても、この「期限の利益」が継続しているうちは強制執行できません。
少額訴訟の場合は、期限の利益が喪失しているかどうかを確認してください。期限の利益の喪失は、決められた期日に支払わなかった場合(1~2回)に喪失します。

強制執行のポイント

さて、被告にとって最大限の譲歩(支払い猶予や分割払いなど)をしてきたにもかかわらず、全く判決を無視して、支払い等の行動を起こさない場合は、しかたがありません。強制執行をしてでも判決内容に従ってこちらの請求に応えてもらう必要があります。

もう一度まとめると、強制執行は金銭や物の引き渡しを行う義務のある人が、任意(本人の意思)でそれを行わない場合、国家機関(執行機関)により強制的にその義務の実現を図るという制度です。

強制執行では、強制執行を申し立てた原告を「債権者」、申し立てられた被告を「債務者」と呼びます。(画数の多い漢字が増えると読み進めづらいので、ここでは債権者を「自分」、債務者を「相手」と書きます。)

強制執行では、相手が現金を持っていれば、それを取り立てれば一番手っ取り早く済みますが、現金以外の財産であれば、それを差し押さえ、取り立てて、競売にかけて、現金に替えて、その中から支払いを受ける、という面倒な手続きと時間が必要になります。このような面倒な手続きを踏んで強制執行を行ったとしても、相手に財産がなかったり、価値のない物を差し押さえたりした場合は、手続きに費やした費用と労力を棒に振ることになります。

強制執行では、相手がどのような財産(資産)を持っているかを把握することが重要になります。

強制執行の種類

強制執行は、どの財産を扱うかによって手続きや執行機関が変わってきます。どんな強制執行
があるのでしょうか。

動産執行(心理的効果)

動産とは、土地・家など不動産以外の家具・機械・商品といったものをいいます。動産への強制執行は執行官が行います。動産執行は、現地へ行って動産を差し押さえる必要があるため、強制執行の申し立ては、差し押さえる動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に申請します。

執行官の役所はたいてい裁判所の中にあるので、裁判所へ行って聞くと教えてくれます。
申し立てと同時に執行費用の予納分として30,000円~35,000円(事案により前後)を先に納めます。不足した場合は後日追加で納めます。その他、執行の立会人(自分が行けない時の代理人や、相手が留守の場合は警察官を立ち会わせる)の費用や、錠前店(相手が家にカギをかけてしまっている場合)などの費用も考える必要があるかも知れません。

本来は、強制執行にかかる費用は相手側の負担となり、差し押さえた動産の売却代金から支払う(優先的に引かれる)形になりますが、商品価値のある物を差し押さえることはなかなか難しいといいます。しかも動産はほとんどが中古品です。中古品はよほど魅力的な物でない限り、競売にかけても買い手が現れず、自分が自ら落札するパターンも少なからず存在するようです。

そうなると、執行にかかるもろもろの費用は全て自分の負担になり、なおかつ、自分でお金を払って中古品を落札したとなれば、何のために強制執行を行ったのかわかりません。落札した中古品が、ネットオークションなどで落札額より高く売れれば多少元は取れるかも知れませんが、そんな保証はその時点では何一つありません。

ただし、動産執行にはもう一つの効果が期待できます。古い映画やテレビで、いかついスーツの男たちが他人の家へ上がり込み、何か書いてある赤い短冊状の紙を、タンスやらテーブルやらに無表情で次から次に貼っていくシーンを見たことがありませんか?

庶民と公権力との対比にはもってこいのシチュエーションですが、動産執行のやり方は今も昔も変わりません。差し押さえ物件であることを示す赤い札を貼られるか、執行官の名前で差し押さえがあったことを示す公示書などが貼られます。

札や公示書が貼られると、相手の心理的ストレスは上昇します。何とかその状況から脱したいと思うはずです。例えばその差し押さえ物が、人目に触れるような場所やお店であれば、とても落ち着いてはいられないでしょう。
公示書が貼られると1ヶ月以内で売却予定日が決まります。その間に、心理的ストレスに耐えかねた相手から、支払いの打診があり話し合いがつけば、強制執行を取りやめるとか売却日を延期するなどの措置をとることができます。

強制執行の取り下げや売却日の延期などは、強制執行を申請した人が申し立てればいつでもできます。
このように、実際に差し押さえた動産を売却しないまでも、相手への心理的効果を期待するという意味では、侮りがたい方法であると言えます。

動産執行では相手のどんな動産でも差し押さえられるというわけではありません。できない物が定められていますので、以下に記入します。
相手やその家族の生活に不可欠な衣服・寝具・台所用品、生活に必要な2ヶ月分の食料および燃料、生活費(21万円)、実印、仏像、位牌、学習用品などです。また、請求額に見合った物しか差し押さえることができない決まりになっています。
(これらは執行官が決めますが、執行官だけに任せると、十分に差し押さえてくれないこともあるようです。できるだけ自分自身か自分の代理人が立ち会うようにした方がいいといわれています)

債券執行

相手が第三者機関(第三債務者)に資産となる債権を持っている場合、その債権を差し押さえることにより取り立てをする強制執行です。例えば銀行の預金(第三債務者は銀行)、会社からの給料(第三債務者は相手が勤務する会社)、売掛金、請負代金、賃料などが債権にあたります。
(相手の生活を保護するための年金、生活保護、恩給などは差押えができません)

債権の強制執行は執行官ではなく裁判所(債務者の住所地を管轄する地方裁判所)が執行手続きを行います。法人の場合は、本社または営業所所在地の管轄の地方裁判所です。
(少額訴訟は2005年4月から、金銭債権による強制執行は、少額訴訟を起こした簡易裁判所で申し立て手続きができることになりました)

例えば、相手が銀行に預金を持っていた場合、「債権差押命令申立書」を相手の住所を管轄する裁判所に申請すると、その裁判所から「差押命令」が出され、第三債務者である銀行には、相手への「支払い禁止命令」が出されます。これにより銀行からは相手に対して払い戻しが禁止され、相手は預金を勝手に引き出すことができなくなり、そこから債権(判決で決められた請求額)を回収する、というのが流れです。

債権執行にかかる費用は、申立費用4,000円+書類の郵送料約3,000円と、強制執行の中では費用面で低額です。請求額が低額の訴訟には向いていると言えますが、債権執行では、相手が「どんな資産」を「どこ」に「どれほど持っているか」を知ることがポイントになります。

給与(給与債権)を差し押さえるには

相手が会社勤めであり、その会社名や所在地などがわかれば、かなり有効な方法です。

債権執行の申し立てには、申立書の他に、当事者目録(自分と相手、第三債務者である会社の名前および住所等を記載)、請求債権目録(判決で決められた相手に対する請求額や執行費用を記載)、差押債権目録(相手が第三債務者に対して持っている債権、この場合は給与・賞与・退職金など)を作成します。

加えて、債務名義、送達証明書(※)、第三債務者(この場合相手の会社)の登記簿謄本を添付します。また、差し押さえた債権があるかどうかを回答してもらう陳述催告も一緒に提出します。
(※)債務名義とは、「判決書」や「和解調書」、「調停調書」などになります。
「判決書」は原告・被告双方に裁判所から職権という形で自動的に送られますが、「和解調書」や「調停証書」は当事者から送達の申請がない限り送られません。
和解・調停成立後はすぐに送達を申請し、送達証明をもらう必要があります。

こう見ると債権執行は、動産執行と違い提出書類や添付書類などが多く面倒に見えますが、先に述べた通り、相手の会社がわかっていれば有効な方法だと言えます。
ただし、対象となる給与や賞与、退職金は、相手の生活維持のため、差押えの割合が決まっており、全額を差し押さえることはできません。
給与、退職金の場合は、社会保険、所得税、住民税などを除いた手取額の1/4(25%)までです。また、この1/4を引いた残額が21万円を超える時には、21万円を残して、のこりの金額を差し押さえることができます。

分かりにくいでしょうか。例えば相手の給与が手取り500,000円だった場合、差押え金額はその25%で、
500,000×25%=差押え額 125,000円。 残額は 375,000円。
残額が21万円を超えているので、そこから21万円を引いた金額
375,000-210,000=165,000円をさらに差し押さえることができ、合計で125,000(手取りの25%)+165,000=290,000円を差し押さえることができる、ということです。

勤務先の会社には、裁判所から給与の差押え命令が通知されますから、そこで相手本人がごねても会社の信用をなくすだけですし、会社としても社会的責任のある立場なので、裁判所の命令は
重く受け止めます。多少の金額であれば払ってくれる可能性は高くなります。
なお、差押え金額が債権額に満たない場合は、毎月の給与から債権額に達するまで差押えできま
す。

預金(預金債権)を差し押さえるには

預金の差押えも給与債権の執行と手続きは同じです。ただし、差押債権目録には金融機関の預金の種類を記入する必要があります。預金の種類は金融機関によって違いますので、金融機関のホームページで調べるとわかります。

金融機関の預貯金を差し押さえる時は、支店名を特定する必要があります。支店名を特定できれば、口座番号や預金の種類、残高まで特定することは不要です。
預金債権の執行は、相手の預金のある金融機関が分かり、そこには潤沢な預金があり、それを差し押さえることができれば理想的な差押え方法ですが、どの金融機関の何処の支店に、どれだけの預貯金を有しているかなどは、なかなか調べようがありません。

たとえば、調査会社にお金を払って調査してもらい、金融機関や支店が分かったとしても、差し押さえた口座にはほとんど預金がなかったということもあるかも知れません。
そういう意味では理想的な差押え方法でありながら、手間とリスクのある強制執行だと言えます。

不動産執行

不動産とは言うまでもありません。土地や建物です。不動産に対する強制執行は、執行官ではなく裁判所が行います。
ただ、不動産執行は、申立手数量4,000円の他に、執行官の調査や不動産鑑定士の鑑定料、売却手数料など含めて40万円を予納する必要があり(不足分は後日追加)、競売による配当をもらうのにも2~3年かかったりするので、私たち素人が1人で起こす少額な訴訟には向いていない強制執行です。

強制執行のまとめ

以上のように強制執行は「動産執行」「債権執行」「不動産執行」の3つからなります。不動産執行は私たち素人が行う少額の訴訟には向いていないことが分かりましたが、動産執行、債権執行は私たちにも行えます。ただ、動産執行は労多くして実入りが少ない執行のように思います。

動産執行は、心理的圧迫の効果は期待できるものの、差し押さえたものが売り物にならなかった場合は徒労に終わってしまいます。また、相手が会社に所属していれば、給与債権の執行がもっとも最適な方法かも知れません。が、これも相手の勤務先を知らなければどうすることもできません。

それにしても、相手が価値のある財産を保有しているか、金融機関にどの位の預貯金を持っているかなど確認せずに強制執行を行うのはリスクが多すぎます。できる範囲で確認してから強制執行に移ってください。

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