少額訴訟のメリットとデメリット

少額訴訟の大きな特徴は
1.手続きが簡単(訴状など定型のものに記入)
2.審理が1日(1回で終了、その日のうちに判決が出る)
3.訴訟費用が少ない(印紙代と切手代のみ)
という3つの大きなメリットがありました。
少額訴訟ではその他に様々な特徴があります。

少額訴訟では3審制は適用されない

通常訴訟で140万円以下の簡易裁判所が担当する訴訟では、第1審(1番目に審理が行われる裁判所)が簡易裁判所です。1審で出た判決に不服がある場合は、上級である地方裁判所(2審)に不服の申立てを行うことができます。これを「控訴」と言います。地方裁判所で出た判決にも不服の場合は、更にその上の高等裁判所(3審)に不服の申立てを行う事ができます。これを「上告」といいます。

(地方裁判所が第1審の場合は、高等裁判所が第2審、第3審は最高裁判所になります。)
原則として裁判は、1審の判決が不服の場合は「控訴」して2審へ、2審でも不服の場合は「上告」して第3審へという3審制が取られています。しかし、少額訴訟では、判決内容に不服でも、上級裁判所への「控訴」が認められていません。

少額訴訟は、「審理は1日、その日の内に判決を出す」という簡易迅速な裁判を目的としているために、この3審制が適用されません。原告であれ被告であれ、判決内容に不服があっても、控訴ができない。となると、いかに簡易迅速をうたった訴訟制度でも、制度自体に問題があるように思えてきます。

しかし、そこは心得たもので、少額訴訟では上級裁判所への控訴はできなくても、判決の出た簡易裁判所に「異議申し立て」を行う事が許されています。
「異議申し立て」があった場合どうなるのか。同じ簡易裁判所で今度は通常訴訟のやり方で審理を開始します。これを異議審と言います。

異議審は通常訴訟のやり方なので、少額訴訟の原則(審理は1日、当日判決)が適用されず、新たな証拠や証人の申請を行うのに1回(期日)、証人尋問に1回(期日)と数回にわたって審理を行い、判決そのものも別の期日を指定して言い渡される事になります。
注意「異議申し立て」は判決が出た日から2週間以内に行わなければ受理されません。

 少額訴訟では反訴を禁止している

反訴。反対に訴える。読んで字のごとしですが、実際にどんな時に使われるのでしょうか。
通常訴訟では、例えば原告から「貸したお金を返せ」と訴えられていたとします。実は、被告も原告にお金を貸していて、いまだに返してもらっていない事実があったとします。この場合、被告は原告に対し訴訟を起こして対抗する事ができます。
また、金銭ばかりではなく、離婚訴訟を起こした相手に対して、離婚に至った原因は自分ばかりではなく訴訟を起こしたあなたにも原因があると、逆に離婚訴訟を起こす事もできます。

こういった、訴えられた内容に被告が納得できない場合(また、納得のいかない事実があった場合)、被告が反対に原告を訴えて、同時に審理をしてもらう事を「反訴」といいます。

反訴には条件が3つあります。
1.反訴の内容が、原告の訴えた内容と関連している事
2.その訴訟が現在進行中である事(結審してしまってからでは反訴はできません)
3.2つの訴訟が、現在審理が行われている裁判所で審理できる内容である事

この条件を満たせば、現在訴えられ審理中である裁判に、「反訴」という形で原告を逆に訴える事ができます。

実は少額訴訟はこの「反訴を禁止しています」。
「1回(期日)の審理」が原則の少額訴訟では、2つの請求を同時に処理する事は困難であり、また、十分な審理ができない可能性があるため、反訴を禁止しています。
だとすると、原告が理不尽な要求をしてきて、そういった事実が無かったり、他の事実があった場合、審理に突入してしまうと、反訴して原告の要求と他の事実とを同時に審理してもらう事ができません。

そこで少額訴訟では、訴訟に入る前または裁判当日に、通常訴訟に移行させる事ができます。
原告からの訴状が受理されると、裁判所から被告に訴状1式(訴状、証拠書類など原告が提出したもの全て、期日の呼出状、少額訴訟手続説明書、事件別証拠書類一覧表)と、定型の答弁書用紙が送られてきます。

訴状の内容を検討し、被告が少額訴訟ではなく通常訴訟で争いたい場合は、裁判所に申し出て、審理期日前に書面で通常訴訟に移行したい旨を申請します。
答弁書には被告が原告の主張を認めるか認めないかを記載します。認めない場合は、「原告の請求を棄却する」と書いて、主張したい内容を書き加えます。そして審理日当日通常訴訟に移行
する旨を主張することができます。

少額訴訟では「分割払い」や「支払い猶予」が適用される

通常訴訟では、原告の言い分を認めた場合「被告は原告に対し、金○○円支払え」と、一括かつ全額の支払いを命じます。
しかし、少額訴訟では、被告の資産や支払能力を考慮して、裁判所が必要と認めた場合は、「分割払い」や「3年以内で支払い猶予」をつける判決を出すなど、柔軟な対応をしてくれます。
この判決についての異議申し立てはできません。

証人は法廷に行かなくてもよい

何度も繰り返しますが、少額訴訟では1回の期日で審理を終了するという原則から、証人は、口頭弁論日当日は在廷してなければなりません。しかし、証人が裁判所から遠い所に住んでいたり、持病があって家から出られないなど様々な理由で出廷できない場合はどうしたらいいでしょうか。

少額訴訟では、証人が出廷できない場合に備え、裁判所が認めた場合には、電話会議システムを利用して証人尋問を行う事ができます。法廷から自宅に電話をかけ、証言してもらいます。
電話会議システムは、証人の声を法廷にいる全ての人が聞けるようになっています。

1-5: 仮執行宣言

あまり聞き慣れない言葉だと思いますが、仮執行宣言とは、判決にこの仮執行宣言が付いた場合、即座に「強制執行」の手続きがとれるというものです。
通常の訴訟では、判決が出ても、被告が「控訴」や「上告」などをすると、判決の確定までに時間がかかります。

住宅などの訴訟にはよくある事ですが、裁判が長引いて、その間に建築会社や施工会社などが倒産や破産宣告をしてしまい、裁判には勝ったけれども、一銭も取れず、弁護士費用や調査費用
等もろもろの経費だけが残ったという、とても笑えない話があります。

このように、控訴審をしている間に被告の資産状況が悪化してしまい、判決の確定を待って執行
手続きを行っても手遅れとなってしまう可能性がある場合に、仮執行宣言がつけられます。
通常の訴訟手続きでは、裁判官が相当と認めた場合に限り、判決に仮執行宣言がつきますが、少額訴訟の場合、判決には必ず「仮執行宣言」が付きます。

判決に仮執行宣言が付いているので、直ちに強制執行を行うことが可能だ、という事になります

ここで少しまとめます。少額訴訟のその他の特徴は、
● 上級裁判所への控訴ができない→判決の2週間以内で異議申し立てができる
● 反訴の禁止→訴訟に入る前または裁判当日に通常訴訟へ移行できる
● 分割払いや3年以内で支払い猶予がつく場合がある
● 証人が何らかの理由で出廷できない時は電話会議システムを利用できる
● 判決には必ず仮執行宣言が付く
ということになり、原告にメリットがあるように見えて、実は被告にもメリットを提供しているのは、裁判の公平性を考えてのことだと思います。ただ、これらは少額訴訟でしかない制度であり、少額訴訟は民事訴訟の中の特殊な訴訟制度といえます。

もう少し少額訴訟の特徴がありますので紹介します。
これらは訴える原告にとっては多少デメリットになるかも知れません。

少額訴訟でのデメリット

今までは少額訴訟にしかないメリット(デメリットにもなる)特徴を書いてきました。
今から紹介する特徴は、少額訴訟を起こして争おうとした場合、多少デメリットになるかも知れません。

少額訴訟は、同じ人が同じ裁判所に対して年間10回までしか訴訟を起こせないという利用制限があります。その年の1月~12月までの間で10回までと決まっています。しかも、少額訴訟による審理や裁判を裁判所に求めた回数ということで、判決が出た回数ではないということに注目してください。

ということはどういう事かというと、「通常訴訟へ移行した」、「訴訟を取り下げた」、「和解した」など、少額訴訟で勝訴(または敗訴)などの判決が出なくても1回にカウントされてしまうので注意が必要です。
「訴訟なんて年に1回か2回あるかないかでしょ」と思われる方がいるかも知れません。確かにそうですが、商売をやって品物を売っているような所では、訴訟を起こさざるを得ないようなことが10回以上出る可能性も否定できません(本当は、ないに越したことはありませんが)。そういう意味ではデメリットですが、実は年10回に限定された経緯はこんな所にありました。

簡易裁判所において、当事者が訴訟を起こす賃金請求事件の大半(90%以上と書いてある資
料もあります)が、サラ金業者やクレジット会社であると言います。
広く一般国民に利用し易いよう新たに作った少額訴訟制度ですが、この制度もこれらの業者の独占状態になっては意味がありません。そこで「年間10回」という制限を設け、業者の独占状態を回避するというのが背景です(10回の制限を付けても、一般の人にはあまり影響がないと考えてのことのようです)。

この年10回ですが、同一裁判所と定義されているので、違う簡易裁判所で起こした少額訴訟はカウントされません(そんなに訴訟ばかり起こす事はないとは思いますが)。
利用回数の制限を確保するため、少額訴訟の訴状には「本年、私がこの裁判所において少額訴訟による審理及び裁判を求めるのは○○回目です。」と○○に回数を書くようになっています

利用回数に嘘を書き入れると、10万円以下の過料が課せられます。

少額訴訟では公示送達が認められない

これも聞き慣れない言葉です。送達とは、郵送して相手に届けるという用語であることは前に説
明しました。では公示送達とは何でしょうか。

訴訟が受理されると、裁判所から被告に、訴状一式の副本(最初の段階で原告側がコピーして裁判所に2部ずつ送った申立書、口頭弁論の呼出状、答弁書など)が送られます。もちろん、「あなたに対してこんな訴えが起こっていますよ」と知らせるためです。

被告は知らせを受けとったあと、訴訟の可否などを答弁書に書き、口頭弁論期日に問題がないか判断し裁判所に送ります。被告から答弁書等が裁判所に送られて、初めて審理が開始されるわ
けです。
しかし、相手が引っ越して住民票などを移動してしまったり、姿をくらましたりして、居所がわからなくなってしまっている場合にはどうでしょう。訴状一式の副本が届けられず、被告から何の回答も得られないとしたら、審理はどうなってしまうのでしょうか。

そのような場合、通常訴訟では、裁判所の書記官が訴状1式を保管し、いつでも交付する旨を裁判所の掲示板に相当期間張り出すことで、送達したものとする方法があります。これが公示送達
です。
公示送達で掲示板に張り出すと、被告はそれを見ることがありません(四六時中裁判所に通って
いるような被告なら別ですが)。しかし、訴状1式は被告に送達したものと見なしているので裁判自体は進行します。そして口頭弁論日にはもちろん被告は出席せず、被告は原告の主張通りの事実を認めたものとして、判決が言い渡されます。

(ただし、被告が欠席したからと言って、勝訴するとは限りません。原告の言い分が法的に筋違いであったり、法的要因を満たしていない場合は、その限りではありません。)

実は少額訴訟ではこの公示送達が適用できません。少額訴訟は1期日審理を原則とする、簡易迅速な訴訟であり、判決に対して2週間以内の異議申し立てなど、不服の申立に制限があるため、少額訴訟でこの方法を使うのは被告にとってあまりにも不利があるという理由からです。

少額訴訟で公示送達の方法をとらなければならない場合は、裁判官が通常訴訟に移行させることになっています。

被告は少額訴訟で拒否し通常訴訟に移行できる権利がある

反訴の禁止のところでも述べた通り、被告は送られてきた訴状を検討し、事実にないことや、他の事実があった場合等は、通常訴訟に移行する事ができると書きました。
いかに原告が簡易迅速な少額訴訟で争おうと思っていても、被告がそれに同意しなければ、残念ながら、通常訴訟に移行できることになっています。もちろん少額訴訟は被告にとっても訴訟費
用が少なく、迅速で、簡単というメリットは原告と同様です。

しかし少額訴訟は、どちらかというと幾つもの制限がある一方的な訴訟制度ですので、一旦被告
が同意してしまうと原告の主張通りの判決に持って行かれやすいという特徴があります。これを回避するために、被告には通常訴訟に移行できる権利が与えられています。

こちらも簡単にまとめておきます。少額訴訟を起こすデメリットは
● 少額訴訟の利用回数→同一裁判所に年10回まで(審理、判決の回数ではない)
● 公示送達は認められない→通常訴訟に移行して公示送達
● 少額訴訟に同意しない権利→同意なしに少額訴訟を行えない、通常訴訟へ移行
以上、少額訴訟のメリット/デメリットとして、特徴を上げてきました。最大のメリットである「手続きが簡単」、「訴訟費用がかからない」、「1日で結審、判決が出る」以外の特徴は、原告の完全なメリットかというとそうではなく、デメリットかというと、これもそうではない。あくまで少額訴訟の特徴を維持運用するための決まり事であるような気がします。

私の考えからすると、その他の特徴で原告に一番のデメリットとなるものは、通常訴訟に移行さ
れることと、少額訴訟内での公示送達が認められていないことだと思います。
通常訴訟に移行されると、何回かの口頭弁論日をもうけ審理をしていきますが、その間に被告の財務状況が悪化したり、行方がわからなくなったり、被告が多重債務者で自己破産などしてし
まっては、公示送達をして、仮に執行宣言が付いたとして強制執行を行っても、一銭も戻ってこ
ないということも可能性として考える必要があります。

少額訴訟を起こす事件は、十分な証拠と、事実関係が明快な事件でなければなりません。
少額訴訟を起こす際は、被告の財務状況、居住地の確認が重要である事はもちろんですが、通常訴訟に移行されても採算に合うかどうかも重要なポイントになってきます。

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