訴訟書類が被告に届かず裁判所から電話がくる

話しは再度私の訴訟に戻ります。いよいよ口頭弁論期日(6月21日)に近づいてきました。提出物の漏れはないか確認すると、法人の登記簿謄本の提出を忘れていることに気がつきました。口頭弁論期日2日前の事です

登記簿謄本の未提出に気がついた当日は、仕事が忙しく申請に向かえなかったので、翌日、口頭弁論期日1日前に法務局へ向かうことに。
6月といえども後半のこの時期は、梅雨だというのに既に猛暑を予感させる晴天と気温の上昇がつづいていました。午後2時頃に時間が空いたので、汗だくになりながら法務局へ足を運び、登記簿を発行してもらい、法務局を出て2~3分たった帰り道のこと。会社から1本の電話が入りました。

簡易裁判所から至急連絡を取りたいと電話があったとのことづけです。
裁判所の少額訴訟係の担当書記官に携帯電話から電話を入れました。
「休日送達で送った訴訟書類1式が、今度も不送達で戻ってきました。どうしましょう」。
「・ ・ ・ ・ ・ 」

どうしましょうと言われても、こちらは素人で、そうなった場合、次にどんな打つ手が存在するのかまるで分かりません。
続けて「被告は本当にそこの住所に住んでいるんでしょうか?」とトンチンカンな事を平然と聞いてきます。

住んでいるも何も、見に行ったわけではないので分かりませんが、品物をそこに届けた運送会社がサインをもらった配達伝票もあるし、内容証明も配達証明書でサインをもらって届けたことを確認できているわけです。その時点までは確実に“住んでいた”事は明白です。
少しの沈黙の間、頭をフル回転させて「不送達ということは、転居や住所不明ではないということで、そこに居ないというわけではありませんよね」と聞くと、「そうですね」という回答が帰ってきます。
「内容証明の配達証明書にもサインしていますから、住所はそこにあるということですよね」と言うと、「そうなんですけど・・・」と言ったまま「沈黙」してしまいました。まったく歯切れが良くありません。

会話を続けながら、いったいこの人はどうしたいのだろうと考えていました。もしかして、訴訟を取り下げてもらいたいと思っているのか?
恐らく抱えている訴訟は山のようにあり、1つでも消滅すれば万々歳とでも思っているのではないだろうか?などと勘ぐりたくなりました。

しかも、口頭弁論日を明日に控えた今日今頃になってこんな電話をしてくるなんて、裁判所とはこんな業務の仕方をしていていいのか?と腹立たしくもなりました。

しかし、ここで怯んでは、本当に訴訟の取り下げを促されてしまうかも知れません。
様々なことを考えながらも頭の端で「何か手だてはないか」と考えて、思いつきました。
 

沈黙を保つ担当書記官

おぼろげな記憶の中で思いついたのは、被告の住所が不明なら「公示送達」という手があったのではなかったか?ということです。しかし、外から電話していることもあり、手元に資料がありません。

担当書記官は沈黙を守っています。その時点では忘れていました。少額訴訟では公示送達は適用されないことや、公示送達の上申書を裁判所に提出するには、ある程度の調査が必要なことも。とにかく今、現時点で知りうる知識を使って現状を乗りきらなければ、訴訟を継続することができないということしか考えていませんでした。

沈黙を破って「公示送達は出来ませんか」と意を決して聞いてみました。
「いや、それは出来ません。こんないいかげ・・・、こんな事で公示送達は出来ません」
聞き逃しませんでした。「こんないいかげん」の「ん」の部分を、まずいと思ったのか瞬時に飲み込もうとしたのでしょうが、わずかに聞こえました。

彼は、何がそんなに「いいかげん」だと言おうとしたのでしょう?
「こんないいかげんな証拠」「こんないいかげんなやり方」、「いいかげんなやり取り」、「いいかげんな訴状」、「いいかげんな請求」そして「いいかげんな訴訟」?
何が「いいかげん」だったのか、今となっては聞くことは出来ませんが、わかりました。彼らも人間であることが。

「法」という特殊な場所に身を置いてはいますが、彼らとて感情のある血の通った1人の人だったという事が。職務上、腹を割って話すなど言語道断なのかも知れません。弁護士は、お酒の席で法律関係のことを聞かれると、一気に醒めて無口になると言うことを聞いたことがあります。
弁護士ではありませんが、書記官は、沈黙を通すことで中立を保とうとしているのかも知れません。

そのひずみから、少しだけ影を除かせてしまった「人」としての感情が「いいかげん」という言葉となって現れたのではないか。
そう解釈することにして、これ以上の詮索は止めて先に進むことにします。

被告の住所を確認するにはどうすればいいのか?

話がそれてしまいました。「公示送達は出来ない」と言うので、無理だと分かっていましたが、他に有効な手段があるかどうか訊ねてみました。やはり無理でした。
彼らは徹底しています。本人たちの口からは手続き上の話を聞くことはあっても、決してアドバイス(またはそれに近い助言)を言うことはありません。

とにかくここで取り下げては、何のために忙しい中裁判所まで行って、訴訟手続きをしたのか分かりません。既に多少なりともお金も出ています(郵便代金と内容証明、登記簿謄本など数千円ですが)。訴訟を取りやめることは、かかったお金が現実として残るだけで、後には何も残らないということになります。

しかし、口頭弁論日は明日に迫っています。今からどんな手を打てと言うのでしょうか。ともかく、現時点では「訴えを取り下げる気はない」という事を明確に伝え、「訴訟を継続するにはどうしたらいいか」を聞いてみました。

すると、「被告が訴状の送り先住所に住んでいるかどうかを確認して下さい」とすんなり答えてくれました。取り下げる意志がないのと、公示送達という言葉を出したことに効果があったのかも知れません。
「それまで1ヶ月口頭弁論日を延期しましょう、期日は追って連絡します」とこれもすんなり延期されました。根負けしてしまったのか、はたまた、そういう制度になっているのか分かりませんでしたが、差し当たって取り下げの危機は回避されたように思われました。
それにしても、被告が住所地に居住していることを証明するには、私が揃えた証拠物の他にどん
な方法があるのでしょうか。聞いてみました。

「住民票を取って下さい」
「えっ、本人と関係ない人間が、しかも東京から名古屋の市役所へ、電話だけで住民票を発行してくれるんでしょうか?」
「恐らく大丈夫です。市役所によっては個人情報の関係でやってない所があるかも知れませんが」(これは当該役所に聞く他はありません)

「他にありますか?」
「現地へ行って調査して下さい」
「現地って?名古屋のその場所に行くっていうことですか?」
「そうです」サラリと答えます。

「現地へ行って、ポストに雑誌が詰まっているとか、電機のメーターが回っているとか、洗濯物が干してあるとか、隣の人に聞くなどして、居住を確かめて下さい」
「 ・ ・ ・ ・ ・ 」
「これが一番信用度のある証拠となります。行って調査して下さい。」
「行くといっても、10万円未満の訴訟で、名古屋までの新幹線往復代や、その他もろもろ含めると、結構な金額になってしまいますよ」
「そうですね。そこは兼ね合いで、どう判断されるかはそちらで決めて下さい」
(かなり機械的です)

「何度も言いますが、現地へ行って調べるのが一番です」(やたらとこだわります)
「・・・分かりました。ひとまず口頭弁論の期日を延期して下さい。その間出来ることはやってみます。」
「そうですか。では調査報告のひな形をFAXしておきますので、確認が取れたら送って下さい」
こうして長い電話は終わりました。6月20日、猛暑を予感させる蒸し暑い午後のことでした。

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